デンマーク 「デンマークの風力発電」の思ひで…

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain 【訪問日:2016年8月】


企業の時間です.
今日はデンマークの「Esbjerg(エスビャウ)」でお散歩です.

 

f:id:osanpowanko:20170120103556j:plain

 

かつて最大の漁港だったエスビャウの港.石油ガス活動の拠点へと発展した港は,2000年代に入り洋上風力発電施設のタービンなどを輸送する拠点へと進化しました.2002年には世界初の大規模洋上風力発電施設「Horns Rev I」が完成しています.ちなみにHorns Revは2012年版のRoyal Copenhagenイヤープレートにデザインされています.2013年には当時最大だった83.5mの風力発電用ブレード(羽根)がエスビャウの港から運び出されています.
エスビャウの港沿いを車で走っている時に見かけました.

 

f:id:osanpowanko:20170120103627j:plain

  

風力発電の羽根だと思います.
港の契約面積(Contracted areas)をタイプ別にみると洋上風力発電が47%と大部分を占めています.Business Development Esbjergによると,デンマークの風力発電タービンの75%がエスビャウの港から輸出されているとのこと.

今回はデンマークの風力発電と関連企業について調べてみました.

 

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain デンマークのエネルギー事情

 

2015年現在,デンマークのエネルギー供給の40%が風力(wind power)によるものとなっています.
この比率をさらに増加させるプランがあり,2020年までには50%を風力でまかなう事が目標とされています(the 2012 Energy Act).さらに...2050年には化石燃料からの100%脱却を目指しています(Energy Strategy 2050).
デンマークの気候・エネルギー大臣であったDr. Lykke Friisは2011年に原油や石炭,ガスからの脱却を宣言しています.私たちの生活は容易に手に入る石油や石炭,天然ガスに頼りすぎていたことを反省し気候変動や有限である化石燃料の問題に向き合い,解決に向けた行動を起こしたのです.

 

1973年のオイルショック,石油価格高騰に影響を受けたデンマーク.中東から輸入する原油に依存した社会から脱却する必要性を意識するようになりました.また,エネルギー自給の観点から再生可能エネルギーの普及を重視するようになりました.エネルギー自給率は1997年に100%に達しています.

 

デンマークはGDPが拡大する一方,エネルギー消費が横ばいであることから,エネルギー政策が成功している国と評価されています.経済成長を続けながら,化石燃料への依存を減少させ温室効果ガスの排出量を減らしています.グラフは1995年=100とした値です.青線が経済成長を表すGDP,赤線が温室効果ガス排出量です.

 

f:id:osanpowanko:20170120103828p:plain

データはStatBank Denmarkより.

 

経済成長と生活の質の両方を維持しながらエネルギー消費の改善を示している国なのです.
デンマークのエネルギーモデルは再生可能エネルギーとエネルギー高効率の技術,消費者のエネルギー意識の向上に重点を置いています.バイオマス発電量を増加させるなど,エネルギー効率の向上と資源の最適化により目標達成を目指していますが,再生可能エネルギーの中核を担っているのが風力です.エネルギー供給源(energy mix)における風力の比率をさらに増大させることを目指しています.

 

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain デンマークの風力発電産業

 

デンマークは風力発電のパイオニアであり,高い技術も持っています.
2014年の風力産業(Danish wind industry)の売上高は 844億 DKK(DKK 84.4 billion).前年比7.4%のプラスになっています.さらに輸出も伸びており535億 DKK(DKK 53.5 billion(2014年))でした.これはデンマークの輸出全体の5%にあたるそうです.
デンマークの風力産業の輸出額です(グラフの金額は10億ユーロになっています).

 

f:id:osanpowanko:20170120104055p:plain

データはDanish Wind Industry Association.

 

世界中で稼働している風力タービンが発電する電力の42%がデンマーク製ともいわれています.

デンマークは30年以上前に風力タービンを導入した世界で最初の国です.平地が多いデンマークは陸上風力発電に向いていたそうです.1979年,Vestas 30 kW turbineという商業用風力タービンが登場しました.制作したのはVestas Wind Systems(ヴェスタス)です.ヴェスタスは世界第1位の風力発電メーカーとして知られています.

 

f:id:osanpowanko:20170120104324j:plain

  

写真はエスビャウ(Esbjerg)近くのE20号線から見えた景色です.

 

f:id:osanpowanko:20160831121626j:plain


ロスキレ(Roskilde)郊外ではこんな風車も!!これも風力発電機でしょうか!?

Vestas Wind Systemsはウィンドタービンを75ヵ国に導入しており,世界市場の20%近いシェアを占めています.世界で風力発電の総累積導入量の多い国の順位は中国,アメリカ,ドイツ,スペインなので,これらの国々へ風力発電装置や部品を輸出しているのでしょう.


デンマークは風力産業のglobal hubと言われています.風力産業は部品やタービンの製造だけではなく設置や輸出,メンテナンスサービスといった数百社が関わる産業となっています.企業における研究開発だけではなく大学といった研究機関でも,風力技術向上のためのリサーチや開発が行われているそうです.

 

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain 洋上風力発電(Offshore wind power)

 

デンマークは13の洋上風力発電施設(wind farm)を所有しています.

【アンホルト洋上風力発電所(Anholt Offshore Wind Farm)】
2013年に完成したデンマーク最大の洋上風力発電所.ユラン半島の東,カテガット海峡に浮かぶアンホルト(Anholt)島沖まで見に行くことはできませんが,レゴランドで見ることができました.

 

f:id:osanpowanko:20170120104527j:plain

  

アンホルト洋上風力発電所は世界3番目の規模を誇る発電所なのだそうです.111機の風力発電設備があり,デンマークのエネルギー使用の4%を賄っているのだとか.この事業を受注したのはDONG Energy(ドンク・エナジー)です.風力発電事業大手のDONG Energyは2017年10月,社名をØrsted(エルステッド)に変更しました.石油・天然ガス事業の売却が完了し,再生可能エネルギーを中心とする事業実態に合わせた社名となったのです.エルステッドとはデンマークの物理・化学の研究者ハンス・クリスティアン・エルステッド(Hans Christian Ørsted)に由来しているそうです.洋上風力発電分野ではデンマークだけではなくイギリスでも発電事業に取り組んでいるそうです.


また,アンホルト洋上風力発電所における風力発電設備(最大出力3.6MW)はSiemens Wind Power(独シーメンス・ウインド・パワー)製です.

 

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain 風力発電施設の大型化

 

デンマークでは陸上風力発電機の多くを農民や協同組合が所有しているそうです.竹内(2013)は住民所有の風力発電を先導した風力発電協同組合の存在が地域への利益還元や住民の合意形成に役立ったと指摘しています.
しかし陸上だけでは発電機の大きさや設置場所に限りがあるため,洋上における施設の設置が進んだのです.さらに,海上では強い風が安定して吹くという利点があります.欧州の海は遠浅の海が多いということが,洋上風力発電が普及している一因だそうです.欧州での洋上風力発電の導入量は2030年に9800万キロワットに増えるとの試算もあります(2016年12月20日日本経済新聞).

 

洋上風力発電の普及拡大に伴い風車翼が大型化する傾向にあります.発電装置の大型化は,発電コストの削減へつながるためです.また低風速地域でも効率的な発電を可能とするため炭素繊維が使用されているようになりました.

 

【DANISH-JAPANESE JOINT VENTURE WILL CUT THE COST OF WIND POWER】
2016年10月にはデンマークのFiberline Composites三菱レイヨンが風力発電翼向け炭素繊維複合材料積層板の製造販売を行う合弁会社を創設しました.
風力発電を効率的に行うために風力発電翼(ブレード)を大型化する必要があります.さらに素材の強度と同時に軽さも必要です.そこに三菱レイヨンの高機能ラージトウ炭素繊維が用いられることとなりました.Fiberline社の成形・加工技術と組み合わせることで価格競争力に優れた風力発電翼向け炭素繊維複合材料積層板の製造・販売が可能となりました.

 

【THE WORLD'S LONGEST WIND TURBINE BLADE CAN HOLD TEN ELEPHANTS】
世界一長い風力発電翼がデンマークのLunderskovという町で製造されています.長さは88.4m.10頭の象の重さにも耐えうる硬さがあり,最大先端速度は300km/hだそうです.
コリング(Kolding)の近くの町で製造されたブレードは,試験をするためAalborgの施設へ運ばれると2016年6月の記事に書かれていました.

もしかして...

 

f:id:osanpowanko:20170120105544j:plain

 

f:id:osanpowanko:20170120105817j:plain

 

デンマークのユラン島(ユトランド)のE20号線をお散歩していたとき,風力発電機の羽のようなものが運ばれているのをいくつも見ました!!
お散歩をしたのは8月下旬なので,世界一長いブレードではないと思います.長いブレードもこんなふうに運ばれていたのかな...
《ころ》「トラックで運ばれていたブレード(羽根)はビョンビョンしていたよね.強度を保つためには柔軟性も必要なのかな!?」

 

世界一長いブレードはLM Wind Power(アレヴァ(仏)とガメサ(西)の合弁会社)によって制作されました.

LM Wind Powerは風力発電向けブレード製造を行う世界トップの企業で1940年に創設されました.本社はデンマークKoldingにあります.工場はデンマークだけではなくポーランドやスペインさらにはブラジルやカナダ,中国など7ヵ国に展開しています.世界における風力発電タービンの5機に1機の割合でLM Wind Powerのブレードが使われているのだとか.
LM Wind Power は2016年10月にGEにより買収される事が発表されましたが,デンマークには他にもSSP Technologyという羽根の専門メーカーがあり,83.5mのブレード(2012年当時,最長の羽根)を生産し韓国のサムスンなどに納入しています.

 

エネルギー構成比における石油の利用は今後数十年で急激に低下することはなく,依然としてエネルギー利用における大きな比率を占めると考えられています.しかし地球温暖化対策が進むにつれて再生可能エネルギーの利用は拡大すると思われます.パリ協定(温暖化対策の新しい国際的取り組み)の発行に伴い,温暖化ガス排出削減のために再生可能エネルギーの導入を決めた国が多くあります.中国やインドといった新興国は再エネや省エネへの投資を拡大しています(2016年12月2日,日本経済新聞第二部).また同紙において,国際エネルギー機関(IEA)ファティ・ビロル氏は「風力と太陽エネルギーは力強く成長する」と述べています.
デンマークの風力産業にとって追い風となりますね”

 

 

※※※
2022年、洋上風力の風車導入量をメーカー別に見ると、中国勢が1-4位を独占。デンマークのヴェスタスが5位、
(2020年まで1位だった)スペイン シーメンスガメサは6位となっています(データはブルームバーグNEF)。

 

 

 

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain デンマーク

 

f:id:osanpowanko:20170117154434p:plain

 

ヨーロッパ大陸の北部に位置する国で,ドイツと陸続きのユラン(ユトランド)半島,フュン島,シェラン島,スウェーデン南部を挟んで西側に位置するボーンホルム島といった主要な島に加え,450程の島からなる国です.童話作家アンデルセンが生まれた町,オーデンセはフュン島にあります.また,アイスランドの東に位置するフェロー諸島やグリーンランドはデンマーク領です.

世界中で親しまれている玩具レゴ(LEGO)はデンマーク生まれのブロック玩具です.レゴグループは2030年までに石油を使わない素材への全面切り替えを表明しています.企業だけではなく,デンマークは環境対策先進国として様々な対策を行っています.例えば風力発電が大規模に導入されており,(2015年末時点で)516基もの洋上風力発電風車が設置されています.

2000年の国民投票でユーロ参加を否決しており,独自通貨デンマーク・クローネを(DKK)使っていますが,DKKをユーロにペッグさせ,対ユーロ変動幅を一定幅に維持しているため,ユーロとの為替レートが大きく変動する事はありません.

 

国名 Kingdom of Denmark(デンマーク王国)

f:id:osanpowanko:20161217205157g:plain

人口 570万人
面積 約4.3万平方キロメートル
言語 デンマーク語
通貨 デンマーク・クローネ(DKK)
時間 UTC+1(日本時間 -8時間,夏季は -7時間)

 

 

【参考ホームページ・参照文献】

川野祐司(2016)「ヨーロッパ経済とユーロ」文眞堂.
TROJABORGS FORLAG「デンマーク-ある王国-」(ISBN 87-89868-60-9).
Karsten Eskildsen「RIBE The city experience」(ISBN 978-87-9920391-8),KulturID.dk. 

外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html

 

Denmark.dk:http://denmark.dk/en/quick-facts/map-of-denmark/svendborg/

VisitDenmark:http://www.visitdenmark.com/denmark/tourist-frontpage

Municipality of Esbjerg:http://www.energymetropolis.com/

Business Development Esbjerg:http://www.eeu.dk/en/

高橋浩明(2013)「デンマークの洋上風力発電〜現地調査報告」,野村リサーチ・アンド・アドバイザリー
竹内久和(2013)「デンマークの風力発電協同組合」,JC総研レポート/2013年春/VOL.25.

Danish Energy Agency:https://ens.dk/en

Danish Wind Industry Association:http://www.windpower.org/en

Ministry of Foreign Affairs of Denmark‐GREEN LIVING:http://denmark.dk/en/green-living

State of Green:https://stateofgreen.com/en